2011年10月21日金曜日

Immolation / Providenceレビュー

 今日はこれをせずにはいられない・・・Immolation / Providenceレビュー!
 圧倒されっぱなしの約19分でした。
 デスメタルなんだから、ある作品を一旦全曲聴けば衝撃でしばらく身体が動かず、しばらく時間を置いてから再度挑戦する・・・ぐらいの体験をした方が「らしい」のでしょうが(笑)、5曲入りとは絶妙ですね、全インストゥルメントが何をやっているか1度で把握するのは難しいジャンルだし、このProvidenceも実際そういう作品であったので繰り返し聴く必要があったが曲数故まったく苦にならなかったし、そして同じく曲数故もっと!もっと!と思わずにはいられない。
 EPとしての新作のリリースはフルレンスとしてのそれに比べると得られる注目は少ないし、ファンの新たな獲得の源となるにもあまり効果が期待できないのが実情ではないかと思いますが、昨日指摘した通り、これはフリーダウンロードで入手可能であるだけに購入の必要な作品に比べると反響が大きいんじゃないでしょうかね。
 少なくとも俺はこれを聴いて、“More Immolation”の誘惑に見事陥れられましたよ!
 バスドラムは基本的に踏みっぱなしですが、リズムに乗るシンバルの刻みやギターフレーズがそれに合った激速なものになる場面がアクセントのように登場するのが特徴的で、基本的にはゆったりしています。
 Lyrical Themesに掲げられているのはAnti-Religionですが、宗教を否定する者はまた宗教に詳しくあらねばならない、そして己の思想を遂行せんが為行動には執拗さが肝要でしょう。
 Immolationの面々の演奏に於いては、バカっ速くフレーズを叩き付ける様はいつの間にか通り過ぎている台風のようなもので、唐突に出てきては唐突に終わったりしており、基本的には上で述べた通り全体的に遅さの感じられるものになっています。
 おそらくはこの演奏こそがImmolationのウリなんでしょう。デスメタルといえばギターの細かい刻みにドラムのブラストビートですが、統制のない暴徒が次から次へと被害を散発させるが如きそれよりも、超重量級の冒涜を以ってワンフレーズ、ワンフレーズをこれでもかと叩き付けてきます。宗教の偉大性を完全に否定せんが為、4人一丸、そう、こわいくらいの執拗さです。
 しかしその様が却って、まるでImmolationという新たな宗教への入信を喚起させているかのように、ある意味、宗教の如く頼もしい存在の大きさを表現していることは皮肉ですね。
 Ross Dolanは全曲通して最初から最後までずっと低音域で歌っています-いや、唸っています。
 理不尽で納得いかないことに対し、己もまた理不尽に喚くしかできない子どもの怒りとは一線を画した静かな怒りの表現。他の3人がテンションを上げて宗教者に攻撃を加えんとするときも、彼はやはり静かだ。
 しかし彼は表向き静かに、それでいて相手に有無を言わさない押し潰すかのような声で主張を続けてはいるが、ベースフレーズに注目すると・・・やはり他の3人と同じく暴力的な態度で以って宗教への否定に臨んでいるのだ。思想の結実に至るその日まで歩みを続けんとするかのようなバスドラムの嵐に合わせっきりなストリングスの掻き鳴らし。たとえばCannibal CorpseAlex Websterなどのような賞賛されるべき技巧の高さや指先の器用さなどは、少なくともこのEPからは微塵も感じられないし、知性をウリにする必要がなさそうな暴虐的ベーシスト / ボーカリストの代表格・KrisiunAlex Camargoですらギターとのユニゾンを見せ場のひとつにしているが、Providenceに於いてはRoss Dolanのベースプレイにそういったものが見られる場面はほんの僅かしかない。
 各々が同一の指針の元にあるが故バンドとしての体裁が整っている中にあってひとり別次元にいるかのように、ひたすら唸り、ひたすら刻む。本当に不気味で且つ、そしてフロントマンとして完璧に強烈な存在感!
 宗教の否定を謳ってはいるものの、基本的にこの生身の4人だけで鳴らすその音楽は実に荘厳且つ壮大で、前述した通り、本当にまるでImmolationが新たに宗教的な存在となりその思想に賛同したものを未知なる世界へと先導していくかのようだ。
 Illuminationのストリングスの使用について、「ブラックメタルテイストのあるGravewormがこういうのをやっているもんだと期待していた」と書いたが、こういった演出もまたImmolationの神秘性の増強に寄与しているものの、これは本当にただの演出でしかないことに注目したい。
 Illuminationの始まりを担うあのリフを生み出しているストリングスの出番はその後もあるものの、あれ以上に派手になることを許されておらず、ましてや話題性のありそうな美麗な旋律を奏でたりすることも決してない。病的なまでに符割と反復のパターンが一定している。
 挙句の果てには、印象的な多重演奏を聴かされながら曲が終わるものだと思いきや、バンドの手によるものでないが為安易に荘厳な効果が期待でき、故にある意味安っぽいとも言えるようなストリングスのカデンツァの中から、一旦は後ろに引っ込んだバンドの主張がまた始まるのだ。
 このエンディング、Immolationという新たな宗教性のテーマソングの一部を担うかのようなこの弦楽に対し、「つまりはこんなものに煽られて宗教に神秘性を見出しているお前らの思想を否定したいのだ。これで終わりではない」と言わんばかりである。
 聴いて演奏を楽しむバンド、掲げたテーマに沿った内容のデキで語られるべきバンドなど、様々なバンドがいることと思う。Immolationは昨今のテクニカルデスメタルをやっている連中の技術と比べては殊更その演奏については評価すべき点のないバンドだが、テーマ性の視覚化についての責の殆どを歌詞が担う中で、ほぼ聴覚的な要素だけで主張を理解させてしまう稀有なバンドなのではないだろうか。つまりそれは、テーマについても思考を巡らされるだけでなく、演奏についても頭でっかちなコンセプトに付随する単なるオマケではないことの証明になっていると思う。
 また、ギターソロも、テクニックが観点ではまるでお門違いな意見しか聞かれないだろう。それほど個性的だ。
 エクストリームメタルバンドにありがちな、楽曲に姿を変えた技術力の展覧会の中の一ブースであるかの如きものとはまったく無縁で、音の数はびっくりするほど少ないし、10秒程度で終わってしまうフレーズもある。Illuminationに至ってはギターソロがない。
 しかしこれがまた不気味さに拍車をかけている。フレーズの構築の仕方には洗練さが感じられないし、正直これまで聴いたデスメタルのギターソロでこうもヘッドバンガーたちに「コピーしてくれ!」と言っているようでないものは初めて聴いた。あまりに終わりが唐突で編集の仕方を間違えたのかとすら思ったソロもあった。
 俺は聴いている最中、「まぁ本当はスウィープきめまくりーのとかみたいなフレーズも弾けるんだろうな」と思っていたが、何度も聴いている内にそんな想像は、「いやこれでいいんだ、これがいいんだ!」という揺るぎのない納得に塗り替えられていった。
 1988年に結成され、最初のフルレンス・Dawn of Possessionのリリースが1991年(当時のラインナップはR. Dolan、R. Vigna他、Tom Wilkinson / Gt.、Craig Smilowski / Ds.)・・・Cannibal CorpseSuffocationなどに比肩するデスメタル界の古株だ。
 かつてはメタル界のパイオニア、そして昨今に於いては、現行のエクストリームメタル界で尚その存在感は強烈な個性により薄れる予兆もなく、また、新鮮味や斬新さが薄れゆく一方である同界隈にあって、いまだに魅力の更新が続いていることは実に驚異的。
 世の、愚かにも俺と同じくImmolationを今まで知らなかったヘッドバンガーたちが健全なら・・・爆撃機にも見える得体の知れないの何かが飛来する様が描かれたアートワークにちなみ、爆撃を加えられたかの如き衝撃を以って、宗教を超越したImmolationという新たな存在の信徒となるであろうし、快感を与えられることと同義の暴虐さを秘めた「次なる爆弾」の投下を待ち侘び、また、知らずのうち己らの後ろに落とされ惜しくも不発弾となっている「古い爆弾」にも手を伸ばすことでしょう。
 このEPを聴いてしまったが最後、それはImmolationが齎す逃れられない摂理(providence)なのですね。

IMMOLATION
PROVIDENCE

レコーディングラインナップ:
Ross Dolan(ロス・ドーラン) - Vo. / Ba.
抑揚を極力排した不気味なボーカルに酷使されるベース、まるで冷徹な拷問。
Ross Dolanが務まるのはRoss Dolanだけ-真のblasphemer。

Bill Taylor(ビル・テイラー) - Gt.
Robert Vigna(ロバート・ヴィナ) - Gt.
メタル史に残るような名リフ・名フレーズこそ飛び出さないが、
テーマ性の表現に徹した姿勢はソロイストの集合体のようなデスメタルバンドの中でも異色。
バンドとして健全だが故にその冒涜的姿勢は実に強固・・・こんなヤツらに誰が太刀打ちできる?

Steve Shalaty(スティーヴ・シャラティ) - Ds.
柔軟さ極まるフィルインなどが恋しいなら別のドラマーを聴くといい。
このバンドに必要なのは彼のような底なしにパワフルなtorturerだ。

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