2011年9月26日月曜日

ΤΑ ΑΛΗΘΗ ΟΝΟΜΑΤΑ-本当の名

 名前について。
 ギリシャのSepticfleshを通して考えます。

Christos Antoniou(フリストス・アドニウ / Gt.)
Sotiris Vagenas(ソティリス・ヴァイェナス / Gt.)
Spiros Antoniou(スピロス・アドニウ / Vo. & Ba.)
Fotis Giannakopoulos(フォティス・ヤナコプロス / Ds.)

 彼らの名の、本当の綴りが知りたい
 なんで俺がギリシャ人の名をラテン文字でしか綴れない憂き目に遭わにゃならんのだ。
 たとえばChristos Antoniou、彼の名を現代ギリシャ語の正書法で書くと、この転写に倣えばΧριστος Αντονιουに間違いないはずです(アクセントの位置はわかりませんが、Χριστοςは古典期に-τόςであったので現在でもこの位置かもしれませ んし、また、ΑντονιουのアクセントはΑにはないのは確実だと思われます)。
 問題はSotiris Vagenas。
 彼の名前は最初、Vayenasとして知りました。
 これはギリシャ語としての発音を優先した転写になっています。
 これだと本当の綴りは-ie-(=-ιε-)に相当するものなのかと誤解してしまいそうです。現代ギリシャ語ではγ(=g)が前舌母音を従えると/j/の音を持つということを知っていなければ、本来の表記に戻せません。
 しかし後に「Vagenas」を目にしたので、やはり本当はΒαιεναςではなく、Βαγεναςなのだと確信できました。
 実際口にしたときの音か本来の表記か、ひとつずつ忠実に本来の文字に相当する別の文字に転写するのが普通ですが、どちらを優先するかは転写する者の自由、それでいいと思います。
 或いは、たとえば彼らのように母語の正書法がラテン文字を用いていないバンドがワールドワイドに活動するにあたっては公式にそのための、多くの人々にとって読むに平易な名が用意されてあれば、それを自分も利用するか。
 Septicfleshの場合は、バンドの公式サイトにプロフィールがなく、また、所属レーベルであるSeason of Mistも「Vayenas」表記を採っているので話がややこしくなってしまったわけです。
 ちなみにこのページだと

 Christos Antoniou → 同一
 Sotiris Vagenas → Sotiris Annunaki V
 Spiros Antoniou → Spiros "Seth" Antoniou
 Fotis Giannakopoulos → Fotis Benardo

 という名義になっています。
 これもまた参照するサイトによって名義がバラバラなのですが、俺が冒頭に書いた名よりはよく見かけます。冒頭の名はMetallum準拠です。あれらは本名か、或いは本名に近しい名だと思われます。
  ドラムのFotis Giannakopoulosは圧倒的にBenardoとして紹介されていることの方が多いです。Spiros Antoniouはまちまちですが、名がSiroとか姓がAntonになっていることもあります。唯一Christos Antoniouはどこを見ても不変のようです。
  Fotis Giannakopoulosをこの名として紹介することが少ないからなのか、GiannakopoulosはGiannakopoulosです。何が言いたいかと言うと、Vayenasと表記するなら本来Γιαννακοπουλοςであると思しきGiannakopoulosは Yannakopoulosにするべきです。
 こういう「揺らぎ」は許せない。
 また、音優先ならAntoniouやGiannakopoulosの、/u/を示す-ou-という表記もラテン文字では-u-にすればよいのに。
 「Vayenas」表記は、おそらく「Vagenas」と書いて「ヴァゲナス」と読まれることを避けたのでしょう。あまりに印象が変わりますからね。
  で、「Antoniou」の-nt-がこの文字列の中にあって現代ギリシャ語では/d/に相当することを知らない人は「アントニウ(若しくはアントニオ ウ)」と読むでしょうが、それはそういう音を持つ名前が他にあるので(「Antonio=アントニオ」とか)許容できるという理由から 「Adoniou(Adoniu)」にしていないのではないでしょうか。
 むしろ他言語と比べると、adon-という音になる現代ギリシャ語の方が奇異ですからね。これは古典期に/d/の音価を有していたδが現代に於いてその音を/ð/に変えてしまったことに起因します。
 だからAdoniouをギリシャ語に戻すとΑδονιουで音が「アゾニウ」になります。
 つべのギリシャ語系動画に寄せられているコメントは勿論ギリシャ語が中心ですが、こいつらが何故か本来のギリシャ文字表記で書く者とラテン文字として書く者が混在しているんですよね。すごく不思議です。
 ラテン文字にすればギリシャ語がわからない人でも音はある程度拾いやすくなるけど、それが言葉の意味に対する理解にはならないわけじゃん。
 でそのラテン文字表記法も人によってバラバラ。
 わけがわからん。
 最後に、これはちょっとした突っ込みなんですが、Fotis Giannakopoulosについて。
 Benardoってどっから来たんだよ?ってのもまぁあるんですが、それより「Fotis」が気になる。
 おそらく本来の表記は「Φοτις」です。
 今でこそ/f/という音を持つようになったφですが、古典期はπ(p)の帯気音だったと言われています(音声資料が当然ながら、ない)。
 ラテン文字にするとphで、たとえばphono-(音の; cf. phonology(音声学))、philo-(好きな; cf. philosophy(哲学))、phobo-(嫌いな; cf. xenophobia(外人嫌い))といった言葉はギリシャ語由来です。ちなみに例示しているこれらを利用した言葉の追加要素(-logy, -sophy, xeno-)もギリシャ語からきています。
 フランス語や、それに影響された英語などではこのphがまだ生きていますが、スペイン語などではたとえばteléfono(=telephone)などというようにfに置き換えられてしまっています。
 古典的な言語を愛する者として、このphという綴りをフランス語などで見かけると、誇張などではなく本当にその都度ギリシャ語に意識が飛びます。
 他、
 ①th : ἄνθρωπος(anthrōpos=人間)から来ているmisanthropy(人間嫌い; mis- cf. μισῶまたはμισέω(mīsō、mīseō) / 憎む)
 ②ch : χρόνος(chronos=時)か来ているchronometer(クロノメーター; -meter cf. μέτρον(metron) / 尺度)
 あとあまり例がないけど③rh : ῥυθμος(rhythmos=(一定の)形)由来のrhythm(リズム); また、ロードス島の英名がRhodesなのはこのrhに由来しています。現代ギリシャ語では語頭のρから帯気音がなくなったのでΡόδοςでしかなく、転写するとRod-になってしまいます。他言語に残るかつての姿・・・うーん、哀しいですね。
 など、あまり日常的でない言葉や、日常的ではあるがそのつくりが複雑なものなどを表現する際には、古典語からの借用がよく見受けられます(「リズム」だって一般的に十分浸透してはいますが元は音楽的な専門用語ですよね)。
  たとえばテレビ。極めて日常的な機械ですが-「機械」=machineもギリシャ語由来です-「television」もしくはこれに極めて近しい語形を 元にして様々な言語に取り入れられています(ちなみにtele-はギリシャ語由来ですが-visionはラテン語由来です)。

 ①「television」 / 「tele+○○」系
 ※アイルランド語は発音記号、ロシア語も、ラテン文字に転写すると見た目が悪いので同じく
 アラビア語:تلفاز(televāz)
 チェコ語:televizor
 ウェールズ語:teledu
 エストニア語:televisioon
 スペイン語:televisión
 バスク語:telebista
 ペルシャ語:تلویزیون(televizyon)
 フランス語:télévision
 アイルランド語:teilifís(/tʲəlʲəfʲsʲ/)
 ハワイ語:kelewikiona(=televikiona)
 クロアチア語:televizija
 インドネシア語:televisi
 イタリア語:televisione
 ヘブライ語:טלװיזיה(televizyah)
 グルジア語:ტელევიზია(tʰelevizia
 ラトビア語:televīzija
 ハンガリー語:televízió
 マケドニア語:телевизија(televizija)
 オランダ語:televisie
 ネパール語:टेलिभिजन(dēlibhijan)
 ポーランド語:telewizja
 ポルトガル語:televisão
 ルーマニア語:televiziune
 ロシア語:телевидение(/tʲəlʲəvʲɪdʲeːnʲɪ/)
 アルバニア語:televizioni
 フィンランド語:televisio
 スウェーデン語:television
 トルコ語:televizyon
 ウクライナ語:телебачення(telebačennja)
 イディッシュ:טעלעװיזיע(televizie)

 「tele+vision」という語形に近いものもあり、「tele-」のみ借用しているものもありで色々ですね。

 ②「非television」系
 ブルトン語:skinwel
 ドイツ語:fernsehen
 アイスランド語:sjónvarp
 ノルウェー語:fjernsyn
 ヒンディー語:दूरदर्शन(dūradarśan)
 ウルドゥー語:بعيد نما(ba‘īd numā)

 「tele」も「vision」もない。
  ja.wikipedia.orgによると、アイスランド語の「テレビ」は「風景(名詞)+投げる(動詞)」という組み合わせで成立した造語であり、ま た、英語やフランス語などからの借用語を極力排しているそうなので、「television」のような形がさっぱり見られないのでしょう。
 「television」と同じく、これまた多くの言語で取り入れられている「philosophy」という形に準じる言葉も、アイスランド語では「heimspeki」と言うそうで、また影も形もありませんね。
 アイスランド語の他にも、これが属するゲルマン語派の言語が複数-ドイツ、ノルウェー-あるのが面白いですね。
 たぶん、アイスランド語でのそれと同じような成立過程を辿った言葉なのでしょう。
  ヒンディー語なんかデーヴァナーガリーだから読めるってことでここに挙げただけなんで、この語が何故こんな形をしているのか、由来はなんなのかなんてさっ ぱりわかりませんが、ウルドゥー語のنماに似た言葉はアラビア語で目にした覚えがあって、それが「見る」というような意味だった気がするんですが・・・ うろ覚えどころじゃないくらいうろ覚えです。
 当然ですが、この多言語による「テレビ」の群れはWikipediaの力を借りてここに載せました。
  ゲエズ語(エチオピアの言語)、アラム語、ベンガル語、マラヤーラム語、ビルマ語、タミル語などは文字自体が読めないので比較対象として載せられませんで した。また、「②「非television」系」で紹介したもの以外にも「television」からかけはなれてはいるがマイナー過ぎるので採用を見 送ったものもあります。
 たとえばナバホ語(アメリカのインディアン、ナバホ族の言葉):níłchʼį naalkidíとか、ケチュア語(南米のインディオ、ケチュア族の言葉):ñawikaruy・・・ただ、ケチュア語の話者は1000万を超えているそうなので、30万のアイスランド語に比べると数の上では圧倒していますがw
 ただこういう民族の言葉って標準語がなさそうですし(というか別になくてもよさそう)、口にする人によって変わってきそうですね。
 あと、マイナー過ぎて採用見送り、ならブルトン語ってのもどうなんだって感じが自分でもしますがw、これはいわゆる「ひいき」ってやつです。アイルランド語とウェールズ語をやってからというもの、ケルト系の言語に興味津々なんで・・・。
 えー、さてw、元の話題が遥か上になってしまいましたが引き続きFotis Giannakopoulosについてです。
  現代ギリシャ語に於いては/f/という音を持つものでしかないφのラテン文字転写として「ph」を採用するのは間違っているのかもしれません・・・が、今 も目には見えづらくとも多言語に多大なる影響を持ち続けているギリシャ語のかつての姿はなるべく残していて欲しく思うわけですね、俺は。
 いや、転写を前提に正書法が定められるわけじゃないから、「φはどう転写する?fか?phか?」なんて問題、バカバカしいのは言ってる俺本人が百も承知なんですよ。
 でもそれでも俺は、phを現代ギリシャ語に残して欲しいし、phの存在を色んな人に意識してもらいたい。
 だから俺はPhotisと書きます・・・

 ・・・っていうか・・・

 だからSepticfleshの面々が本名を明かしてればこんなもんどうでもいいことじゃっちゅうんじゃボケェ!!!
 Firewindの連中のギリシャ語による名は綴りまで明らかにされてるのにSepticfleshはなんでダメなの!?知名度の差!?
 意味わからん!
 実際のところ、Septicfleshの面々の本名は何か・・・。
 ラテン文字から考えられる本来の綴りは以下のとおり。

 Χριστος Αντονιου(Gt.), Σοτιρις Βαγενας(Gt.)
Σπιρος ΑντονιουVo. & Ba.), Φοτις Γιαννακοπουλος(Ds.)

 いいじゃーん!
 アクセントはナシです。位置がわからないからってのもあるんですが、アクセントつけると以前書いた通り不恰好になりますからね。
 ちなみに最初載せるにいいなと思えた画像は別のもので、そちらにはこの4人の他に今はいないプレイヤーが写っていたので使用を断念しました。 
 何故これを選んだかというと・・・墨がよく見えるからw
 まぁそんなことはいいとして、彼らはシンフォニックなデスメタルバンドとして活動してますよね?シンフォニックであることは、神秘性を演出として用いることと無関係でないと思うんですが、だったらこのギリシャ文字による表記で売り出す方が「なんだこいつらは?」感が増すと思いませんか。 
 民族性を犠牲にしてまでワールドワイドな宣伝ってのは神経質にならざるを得ないものなんでしょうか。
 いや転写が悪いってんじゃないですよ。
 補助的に使うのは全然構いません、アリです。
 つーかね、ギリシャ文字なんかよりも、ノルウェー語とかデンマーク語なんかの方が正書法でラテン文字を用いているのにも関わらずぜんっぜん易しくなくて読み辛いですよ!!
 でもノルウェー人、デンマーク人によるメタルバンドで、尚且つブラックメタルをやってる連中以外でいちいち英語圏の人間が読み易いようなステージネームつけてる例ってそんないっぱいありますか?ないでしょう?
 ブラックメタラーはね、永遠の厨2病患者どもですから。
 ただブラックじゃなくてもポーランド人は本名が想像もつかないようなステージネームの使用が多く見られますね。これはおそらく、ポーランド人名がスラヴ語圏外では馴染みがないからだと思います。
 正直俺もパッと見てハイ上手に発音して!って言われると自信がないです。
 なまじラテン文字で綴られている名は、ラテン文字に慣れた人間は己の解釈で、それが正しいのかどうかも深く考えずに間違って読んでしまうんじゃないんでしょうかね。
 そういうことに対しては、「ああしかたないな~」と妥協するんじゃなくて、怒るべきです。
 アンパラパなバカどもに合わせて己の名を他言語圏でのそれに置き換えて、たとえばPiotr Wiwczarek(VaderのVo. & Gt.)ならPeterだのPaweł Jaroszewicz(元VaderのDs.)ならPaulだの名乗るんじゃなくて。
 姓まで含めると拒否感が強まりそうってんなら、名だけ-ピョトルとパヴェウ-でいいじゃないの。
 ピーターとポールにする必要があるの?
 つーかPeterとPaulなんてフツー過ぎてインパクト全然ないじゃん。
 つーかデスメタルやってんのにPeterとPaulて。
 Vogg < Wacław KiełtykaDecapitatedのGt.)とかVitek < Witold Kiełtyka(DecapitatedのDs.; 故人)なんかも他言語圏への妥協ですが、まぁこれはまだいいじゃないですか。いかつい印象が語感から出ていると言えます。
 PeterとPaulはなぁ・・・。
 めちゃめちゃ耳にする機会の多い名というだけでなく、ただでさえ有名な聖人が由来なんだし、PeterとPaulがデスメタル?かっこつかないよねって思いますよ-ペトロスとパウロスに全然縁のない日本人である俺が
 そこは由来がそうであっても世界的にはそう知られていないポーランド語名で売り出すとまた違った印象があったんちゃうの?って思っちゃいますけど、どうでしょうかね。

 ハイ、まーそんなわけでSepticfleshのボケ!って記事でした。

オマケ:Firewindのメンバーの名前

Apollo Papathanasio(Vo.): Απόλλωνας Παπαθανασίου(アポロナス・パパサナスィウ)
※ギリシャ系スウェーデン人。
Gus G.(Gt.): Κωνσταντίνος Καραμητρούδης(コンスタディノス・カラミトルズィス)
Bob Katsionis(Key. & Gt.): Μπάμπης Κατσιώνις(バビス・カツィオニス)
Petros Christo(Ba.): Πέτρος Χριστοδουλίδης(ペトロス・フリストズリズィス)
Michael Ehré(ミハエル・エーレ / Ds.)
※唯一のドイツ人。ちなみに前任のMark Cross(元Helloween)もドイツ人。
ヤンギでGus G.が言ってたんだけど、Mark Crossはギリシャに10年以上の在住経験があって、
リシャ語がとてもうまかったそうです。
こういう情報大好きw

 余談ですが俺はSepticfleshもFirewindも好きじゃないですw

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