今は後置字やってます。
・・・が、前置字に関する一切を覚えたからページを進めたというわけではないんです・・・。
ྭと ྰを除くすべての下接字は、これが付いた基字すべての音を変えますが、上接字と前置字は、主に無気化と声調の変化を担うのです。
そして、ལを除くすべての上接字とすべての前置字が影響を及ぼす基字は、そのどれもが第三列と第四列に属するものであり、その効果は、「第三列を無気化、第四列の鼻音の声調を高くする」です。
そしてこれは前置字も有しているものなのです。
第一列に付加されないというわけではないのですが、影響が何もないのです。
たとえばལ(lá)と、K段第一列のཀ(kā)が結合すると、ལྐという字形が形成されますが、音は「kā」のままです。
故に、基字の一覧を順序通りに暗記しておけば、初学者であっても、すべての付加記号と基字の結合パターンを覚えておかなくても読解に事足りるのです。
CDエクスプレスでは、一覧表という形で、これら上接字などが結合する基字をすべて載せていますが、概要を説明すると、上述の通り、簡単に済んでしまうものなのです。
俺は何が何でも楽をしたがる性格なので、一覧表なんて掲載されても、ハナからその内容を逐一頭の中に収める気にはなりません。謙虚に取り組むべき、初めて見たものであったとしてもです。
なので、勉強をしながら、まだチベット「語」どころかその「文字」にすら慣れていない段階から、ひたすら覚えやすい方法を模索してました。
何度基字の一覧表を書き、付加記号らと組み合わせ、概要を自身に説明するための記述を繰り返したことか・・・。
しかしその甲斐はありました。
「急いては事を仕損じる」、「急がば回れ」と言った言葉、私は非常に好きですし、人生の指針として、これらが示す物事に対する考え方は生涯人生の指針としたく思いますが、明らかに損はもたらさないとわかる近道を利用しない手もないとも思います。
前置字は全部で5つありますが、初学者のである間、注意を払ってその解読に臨まなければならないものは、ད、མ、འです。
残りの2つはགとབですが、両者はまったく同一の働きを持っています。
且つ、མ、འの働きもまったく同じです。
なので、特別視の対象となるのは、実質2つです。視覚的な分け方をすれば、「ད、མ=འ」となるでしょうか。
前置字5-1: ག(khá)
第三列を無気化、第四列の鼻音の声調を高くする。
前置字5-2: བ(phá)
同上。
前置字5-3: ད(thá)
同上。
加えて、བ(phá)をwāに、བྱ(chá)をyāに、བྲ(trhá)をrāにする。
前置字5-4及び-5: མ(má)及びའ(á)
第三列を無気化、第四列の鼻音の声調を高くする。
加えて、གをgáに、ཇ(chá)をjáに、དをdáに、བをbáに、ཛ(tshá)をdzáにする。
5-2: བが結合の対象にしている基字ならびに、有頭(上接字を頂く基字)・有足字(下接字に乗る基字)は特に多く、一見しただけで暗記する気が削がれるほどです。
しかしなんのことはない、第一列についても影響は皆無、第二列にはつかない(これは上接字と前置字の特徴でもある)、第三列につけば無気化、第四列につけば鼻音の声調を高くする、効果についてこの概要さえ覚えておけば問題にならない。
勿論、この理論を以って学習を進める初学者と、一覧表をしっかり丸暗記した初学者とでは、字を読む速度はおそらく後者の方が優れているでしょう。視認して即座に字の読みがわかる者相手では、頭の回転を要する理詰めの読解は分が悪い。
しかしこれもひとつの方法ですし、俺なりに、「楽をしつつ理解を浅いままにしない勉強法」を模索したつもりです。
ちなみに、冒頭の「 ྭと ྰを除くすべての下接字」というくだりで、実は下接字として「 ྰ」をチベット語学習日記に初めて登場させています。
下接字について書いたときは、すっかりその存在を忘れていました。
というのも、本曰く、専ら外来語の音写に用いられる下接字だそうで、説明も2行の文章のみで、これが付いた基字の視覚的な例なども未登場です。
一度そんな存在感の薄い説明文を読んだだけじゃ、そりゃ記憶には残り難いよ・・・。
ྭとは違って基字になんの影響ももたらさないわけではなく、「母音を長くする」働きがあるそうなので、本来的な現代チベット語の言葉にとってはほぼ不要であるとしても、一応言及はしておくべきだったでしょうね。
そうそう、当サイトに於いて、ラテン文字に転写したチベット語の代表例のようになっている「bod skad」、これの表記に用いられている「ワイリー方式」ですが、LexilogosのWeb上キーボードに併記されているラテン文字は、どうもこの方式に則ったもののようですね。
なので、記事を書く際チベット語の入力に利用している内に、徐々にではありますが、ワイリー方式で用いられるラテン文字を記憶し出しています。
今は、何故「bod skad」が「^phöökää」なのかがわかるようになりました。
まず、「^phöökää」の本来の綴りは、བོད་སྐད་です。
「^phöökää」は音写、「bod skad」は転写なので、両者の見た目にこれだけ大きな違いがあるわけですね。
བོད་སྐད་を「phöökää」の表記の根拠になっている方式で転写すると、「photh skath」になります。
後置字དは直前の母音を変化させ、且つ長くする働きがあるので、oはö(/ø/)になります。
སྐという結合字に於いて、上接字ས(sā)はなんら基字ཀの音に影響を及ぼさないので、音写「phöökää」に於いては「s」が影も形もないわけです。
そして「skath」の「a」は、「photh」の「o」と同じく、後置字དに影響され、ä(/ɛ/)に変わっていると。
特殊記号がまったく不要の、ごくごく基本的なラテン文字のみを以ってして、世にも奇妙な綴りを創りだす「ワイリー方式」、これを理解したくてたまりませんでした。
しかし、こうして淡々と置換を繰り返してゆくと、方式の構造の単純さに気付かされます。
というわけで、適当にチベット文字による言葉を拾ってきて、自力でワイリー方式を用いてラテン文字に置き換えてみた言葉をここに挙げます。これは記憶していないので、ノートを見ながら書きます。
འདི་ཁྱེད་རང་གི་མིན་པས།
W: 'di khyedrang gi minpas
C: ディ ケラン キ メンベー
※W=ワイリー方式、C=CDエクスプレス準拠。
Cはワイリー方式による転写と実際の音との乖離を強調する為、敢えて仮名表記を採用しています。
また、Wの表記は、Cの表記の単語毎の分離に合わせています。本来は、たとえば「khyedrang」なら「khyed rang」になります。
དབུས་གཙང་སྐད་
W: dbus gatsang skad
C: ユー カヅァン ゲー
བསྒྲིགས་
W: bsgrikhs
C: ティー
ཁྱེད་རང་ཕྱི་རྒྱལ་ནས་ཡིན་པས།
W: khyedrang phyirgyal nas yinpas
C: ケラン チギェー ネー インベー
རྫོང་ཁ་
W: rdzongkha
C: ツォンカ
・・・こんな具合です。すさまじいですね・・・特に「dbus=ユー(üü)」、そして「bsgrikhs=ティー(trii)」は、自分で書いたのに身震いするかのような奇妙さ!
正直、ワイリー方式に面白さを感じるのは、チベット語の勉強の本質とはあまり関係がないような気もするんですが、「phöökää方式」とは違い、チベット語を基本的なラテン文字のみで記すことができるというのは非常に有用なので、これからはチベット語にラテン文字を併記するときは、ワイリー方式に則った表記法で綴っていきたいと思います。