2012年5月8日火曜日

モンゴル文字を初めて書いた日

モンゴル文字を初めて書いた日。

 ただモンゴル文字をうまく書けるようになるためだけにペンを走らせたわけではなく、ちゃんと意味のあるモンゴル語を、その和訳も発音も逐一確認しつつ、モンゴル文字で書いているわけなので、モンゴル語の勉強が始まったとも言えるんだが・・・まぁでも、単語の羅列を書き写してるだけの現状は、あんま言語の学習とは言えん気がするし、そもそもこういうこと言うまでもなく、まだモンゴル語の勉強が始まったって感じは俺自身が全然してないな。
 「モンゴル語基礎文法(フフバートル 著)」は、買ったその日の内に開いて、すぐ閉じた。
 語学書はまず最初からきっちり読んでいくのが学習の定石というものだと思うが、この前置きがめちゃくちゃ長く・・・それだけだったならまだマシだったんだけど、この本を学習に用いるにあたって留意しておかなければならないことへの言及が織り込まれていたので、飛ばして読むわけにもいかず・・・読むか、読まないか、しょーもないことで悩んでパタン。
 もうまさに出鼻を挫かれた-完全に。
 で、今日改めて開いてみて、「もういいから文字書き始めてみよう」と、筆を取ったわけだ。
 さて、初めて書いてみて-正直言うが、全人類の中で、今日に至る歴史を通して、初めて書いたにしては端からかなり上手く書けているんじゃなかろうか?俺。
 下のものは、一番最初に書いたモンゴル文字を写したページ。より細かく言うと、一番右のもの-「(目を)閉じる」という和訳の直上。「anin」は、後述するが、口語発音で、文字通り読むとその音は「anina」。ちなみに横書きしてあるのはバスク語。


 見ればわかるように、文字が1つ、2つ、3つあって(3つめのものは2つの文字が結合しているように見えるが、これで一文字)、その後にこれら3つを集合させたもの-つまり単語が書いてある。この書き方は本に則ったもので、この「anin(a)」を含めて最初の内いくつかはこうやって書いていたが、すぐ面倒臭くなってやめた。
 発音がカナで書いてあるのは、ラテン文字を縦書きする気になれなかったため。このページだと縦書きされてるラテン文字による転写は「anin」と「oni」のみだね。
 「エネ > エン」のラテン文字転写は「ene > n」、「ウヌ > オン」は「unu > ωn(本ではオメガのような文字で表現されていて、実際は/ɤ/だと思う)」、「エヌュ > オノー」は「önü > onoː」・・・で、次の「エヌュ」は・・・なんだろ?。
 いや、ていうのも、読めないのよ。
 今さ、「あれっ、この2つめの「エヌュ」は1つめとどう違ったんだっけ・・・?よし、モンゴル文字の方見て思い出そう!」とやってはみたんだよ。
 でもさっぱりだね、ジッサイ。
 一応、ただ目に映る通り模写してたわけじゃなくて、上で言った通り、意味も発音も、それから単語内のどこで文字が切れてその各文字が持つ音素は何かとかちゃんと確認しながら書いてはいたんだけど・・・うまく書けることにのぼせてて、頭使ってるつもりが使えてなかったのかな?
 うまく書けると、当たり前だけど凄く気分がいいからね。しかも初めて書く文字でさ。タミル文字はかなりヒドかったからね、書き始めた当初は。機会があったら晒して話題にするかな。
 「ウヌ」はわかる。「un」だ。モンゴル文字は読めないし自分で書いたものをまともに覚えてもいないのに何故「unu」でないと言い切れるのかは下を読めば判る。「ウン」と書かなかったのは気まぐれ。未だに、Nの発音は、カナで表現しようと思ったら「ン」と書くべきか「ヌ」と書くべきか迷うんだよねぇ。
 英語の「cousin」は「カズン」だけど、フランス語の「Aquitaine」は「アキテーン」じゃなくて「アキテーヌ」って言われるでしょ?この2つの語の末尾にあるNは同一の音を示してるのに。英語圏のJohnとフランス語圏のJeanneは本来、どちらも「ジャン」か「ジャヌ」と同等に転写されるべきものなんだよ。
 そういうのにも振り回されて、さあどう表現すべきか?って考えちゃうんだよね。
 ま、そんなことはアレだ・・・ひとつの記事になりそうなくらい奥が深い問題だと思うから、別途書く機会を設けよってところだ。
 さてここで、説明もなしにちょっと後回しになってしまったけど、上記カナによる発音のくだりに見受けられる「>」の意味を、モンゴル語の極めて重要な特徴について言及することで明かしたい。
 それは、文語と口語の音の乖離がかなり激しいということ。
 あれ、なんかそういう言語、最近話題にしてたよね?
 そうですね、タミル語。
 ただあれほどヒドくはないという印象だが。
 モンゴル語に於ける語の末尾の短母音は脱落する傾向にあるそうです。
 だから「ene」は「en」。で、語頭の母音は次の母音に影響されてその音を変える。それで「unu > ωn」。語末の母音も、ウルティマのUが短いからしっかり落ちてますね。
 「önü」もÜは短母音ですが・・・脱落したり長母音化したりってことらしいです。
 まー、あとは特定の子音が語中、母音に挟まれた場合に消えたりとか・・・。
 モンゴル語の母音は性質によって3種類に分類され、それぞれ「男性母音」、「女性-」、「中性-」と名付けられています。
 カンタンに言うと、後舌母音は男性、前舌母音は女性、そして「I」のみが中性に属しています。
 しかし「önü」が口語発音で「onō」になるということは、結局実際の発音上はオスメス関係ねーってことなんじゃあないんでしょうか?後舌化しちゃってますしね。
 そんなわけで、タミル語同様、綴りを覚えて読み方を覚えて、更に口語上での音も覚えないといけない。
 まぁ、「綴りを覚えて読み方を覚えて」ってのは本来逆であるべきでしょうけどね。ひとつひとつの文字の音を覚えた上で単語を読み始める、と・・・。ただ上でも言いましたが、もうさっさと文字が書きたかったので、単語を構成している文字毎の読みはまだまだ覚えられていないものの方が圧倒的に多いです。アラビア語はちゃんと一文字一文字読み方を覚えた上で言葉を読み始めていってましたが・・・あまり文字の数が多くなかったからそれに根をあげずやってられたのかもしれんなー。当時は苦痛とも、何とも思わずただ機械的に本に出てくる文字を順に覚えていってたから、完全に「今にして思えば」って意見だが。至極当然の学習方法だ。経験をある程度積むと、明らかにヘンだとわかってる方法を以ってしてでも結局は全体がモノになるからと思えるようになってしまってイカン。
 ところでさあ、上の2つめの「エヌュ」・・・気づいたんだけど、2番目の文字が「anina」の「na」とまったく同じじゃん!
 つまりは・・・あのモンゴル文字の後に関係のない「エヌュ」を置いたとか、モンゴル文字による単語を書かずに「エヌュ」についての言及を記したとか、本の中で見るべき箇所を誤って1つめの「エヌュ」をあそこに書いてしまったとか・・・なんにせよショーモナイ。
 さて次の画像を見てみよう。


 ページ自体は、最初の画像に写っているものと同じです。
 ここで試みたのは、ノートを傾けずに書けるかどうか、ですね。
 先に結果を言っちゃうと、諦めました。
 ・・・あっ!ていうか見て!「エヌュ > ウン」の「エヌュ」が本当はどんな転写を元にしたのかの答が載ってる!
 「üne」かあ・・・「ユネ」じゃん!
 困ったもんだ。
 そしてやはり跡形もなくなっている女性母音、と。


 さてページを変えました。
 罫線を横にしての、縦書きの練習が続いています。
 書いてる内に、「ガイドなしで線を真っ直ぐ引くなんてムリだしいっそ故意に角度をつけよう」と思いついて、実践してるのがわかりますね。
 書き易くはなったし、別に線が真っ直ぐじゃなくても各語の語頭の書き始めの位置が縦に揃っていれば全体的な見映えはそんなに悪くならないだろうと考えてました。
 でも、結局すぐやめちゃいました。やっぱヘンだろうと。狙った写したものじゃないんですが、次の画像への繋ぎになっているかのように、最下段から線を真っ直ぐ引き始めているのがわかりますね。ちなみに最下段右端にちらっと写っているのはタミル語・・・いや、タミル「文字」ですね。「ani」と読めるので、モンゴル文字で最初に書いた言葉、「anina」と書いたんだと思います(タミル語で「ani-」という言葉は知らないし)。なんか俺、ある文字を書いている際に、それとはまったく異なる文字をふと書きたくなる癖があるんですよ。まったく写ってませんが、このページの右上には実はサンスクリット、つまりデーヴァナーガリー文字がびっしりです。


 最初のページに書いたときは思いつかなかった・・・というか、縦書きといえば我らが日本語だしってことで日本語を縦に書くときと同じ感覚に頼って罫線と罫線の間の空白に文字を置いていっていたんですが、この罫線は非常に優秀なガイドになったんですね。モンゴル文字の垂直な線で罫線を染めていっています。
 ところで真ん中にはなんだかモンゴル文字とは異質そうなものが・・・?
 そう、これはアラビア文字。書いてあるのはペルシャ語。
 アラビア語、ペルシャ語併せて相当の文量をこれまでに書きましたが、それでも尚アラビア文字はあまり手に馴染んでいなくて・・・常々、もっと楽に綴られないものかと考えています。
 で、モンゴル文字をノートを通常の角度にして見るとアラビア語に似た見た目をしていたので、「なるほど!これはもしかしたらかっこよくアラビア文字を記す新しい手法になるかもしれない」と思い、やってみたんですが・・・3行で終わってること、同じ単語をしつこく何度も書いていることからわかるように、まったくそんなことはありませんでした。書き易さを見出したんなら色んな文章書いてただろうからね。チャンチャン。
 ちなみに最初のページからここまでは右から左へ書いていっています。本来は「縦書きで、左から右に」書くのがモンゴル文字です。
 さて、こんな調子でこのページも埋まりました。


 そしてこれが現時点最も新しく書いたモンゴル文字です。「左から右に書く」を初めて実践しています。
 上のページでは、本で3ページほどに亘って登場する複数の言葉を何度も繰り返し書いているんですが、これは更にページを進めて模写したものです。読めねぇよぉ~(笑)。


 そして罫線を横にして見るモンゴル文字。
 どうすかアラビア文字を知ってる方、結構それっぽいでしょ?ちゃんと「左から右に」書いて紙を左に90度傾けると、アラビア文字の並べ方に準じた見た目にもなるんですよお~・・・・・・実はちょっと諦めきれてないんだよね(笑)。
 あと、ちょっとだけシリア文字っぽくもあるんですよね。
 とまあ、モンゴル文字を初めて書いた日、ホント、初めてにしてこの上なく上出来だと俺は思ってます。
 自分で自分を鼓舞できるって、とってもステキなことですね。
 関係ないけど、シリア文字、とっても書いてみたいんです・・・タミル、モンゴルよりも遥かに前に目をつけてたんだ。
 「モンゴル語基礎文法」を初めて話題にしたときにも書いたけど、書き方を学ぶだけならWikipediaでも参考にすればいいが、俺は単に文字単体を綴りたいんじゃなくて、「言語」が書きたいんだよ~!
 シリア語(か、アラム語)が日本語でまともに学べる本ってあるんかしらねぇ。国際語学社のアレは・・・?
 何故書き易さを長時間追求することなくこれほどまでにアッサリと自分なりの筆記方法が確立させられたのかはわかりません。
 ただ最近、あるすごいことに気づきまして、それと関係があるのかもしれません。
 何かというと、

「ラテン文字は書き辛い!!」

 今更!?って感じですが、ホント、長いことラテン文字で色んな言語書いてきて、つい数日前にラテン文字を書いてる際にそう思っちゃったんですよ。唐突に。
 それでアルバニア語、バスク語が書けなくなっちゃいまして・・・すごい落ち込んでました。
 さすが世界で最も多くの人々に綴られている文字なだけあって、字形がすごく単純なんですよね。
 多くの人々によって扱われるようになった経緯には一言で語れぬ複雑な事情が潜んでいるんでしょうが、そういった問題に加えて、確実に「覚え易いこと、書き易いこと」が好まれているが故、実に多くの言語にこの文字が正書法として採用されているという考え方は悪くない筈です。
 俺にとっては、ラテン文字を書く際、フラクトゥールが立派に手で書ければ一番いいんだと思う。
 タミル文字、モンゴル文字に極めて早く慣れることができたのも、日本語の正書法に於ける文字群と同じように単純な形をしていないからなんですよ、おそらく。
 ラテン文字は簡素でありすぎる・・・俺にはそれがよろしくないんでしょうね、何故か今まで気づけませんでしたが。
 いや、それはラテン文字ばかり書いてたからかな。
 タミル文字、モンゴル文字を書き始めるまでに学び終えて自由に書ける文字は、①日本語で使う文字3種(ひとつと数えます)、②ラテン文字、③キリル文字(ロシア語とセルビア語で使うもの限定)、④アルメニア文字(アルメニア語を綴る)、⑤アラビア文字(正則アラビア語とペルシャ語で使うもの)、⑥デーヴァナーガリー文字(サンスクリットで使うもの)、⑦ヘブライ文字(ヘブライ語とイディッシュを綴る)、⑧ギリシャ文字(古典ギリシャ語で覚えた、現代ギリシャ語の正書法よりも複雑なもの)、⑨チベット文字(チベット語を綴る)の9種類があった。ラテン語除くその他の文字は括弧内に示した言語を綴る際に使いますが、だからラテン文字は別格だったんだよね。フランス、オック、イタリア、スペイン、ラテン; ドイツ、オランダ; ウェールズ、アイルランド; デンマーク、ノルウェー; ポーランド、チェコ; フィンランド、ハンガリー; トルコ; ベトナム; インドネシア; エスペラント; アイヌ-の各言語(まだあったかも)を、ラテン文字ひとつで書いてたんだから。更にラテン文字は、非ラテン文字を正書法に持つ言語の音写でも大活躍・・・。
 そりゃあ慣れきった気にもなるわってくらい、たくさんの言語をこの文字で書いてた。
 今はなんとか「書けないスランプ」から脱せたと思う。でもすごく神経遣って書いてる。シンドイw
 タミル文字とモンゴル文字も気を抜いて書けるわけじゃないけど、ラテン文字に比べるとまだ疲れない。
 ・・・たぶん、字形を崩しようがないからなんだろうと思う。
 ラテン文字は意図的にであろうがそうでなかろうが簡単に崩せる。僅かでも油断すると途端にダサくなる。
 立派に見せるためには字形を工夫しないといけない。
 たとえば「L」の小文字、「l」。「1」の如く、線を縦に一本引くだけ。こんな簡素の極まった文字、世界には数えるほどしかないんじゃなかろうか。
 そしてこれをかっこよく見せるには・・・?
 いやあ、俺にゃあ思いつかないな・・・。
 おそらくフォントが世界一豊富に用意されてるのはラテン文字だろうな。
 生まれて初めてラテン文字を見て、その字の形に表現し得ない奥深い魅力を感じる人間って、いるかな?
 ラテン文字はスカスカで落ち着かない・・・。
 だから俺はぎゅうぎゅうにする。それが、現時点俺が最も自身を満足させられる綴り方。


 俺がダイアクリティカルマーク付きのラテン文字に特別な魅力を感じていたのも、今にして思うと、字形の退屈さをある程度削ぐ装飾を纏ったもののように見えていたからなのかもね。
 ただ、実は今は基本のラテン文字のみで綴られる言語が俺の中でアツいんだけどねw
 アイヌ語を始めたり、バスク語やフィリピノ語の本を注文した理由はそこにあるんです。ウズベク語の本を買おうとしていたのも同じ。アイヌ語は、ラテン文字で学べるものを慎重に調べた上でCDエクスプレス アイヌ語を買いましたからね。
 他には、オランダ語がまたやりたくなってきていたり、アフリカーンス語、ソマリ語とかにも目をつけてますが・・・この基準に則って選んでいくと、そして日本語で書かれた語学書がある程度手に入り易いこともあって、自然とオーストロネシア語族のものが多くなるのが悩みドコロだ。あんま魅力を感じないんだよね。

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