2012年12月6日木曜日

「さいいん」と「あわじ」

 俺が今しているバイトは烏丸にあり、そこへは阪急電車で通っている。
 昨日の帰宅時、西院に電車が止まった折に発せられたアナウンスが「淡路」と聞こえて驚いた。
 何故そう聞こえたか?
 そのとき以外に普段聞いている「西院」のイントネーションと異なっていたからだと思う。
 俺の母親が、「ナルニア国物語の「ナルニア」は「アルメニア」からきてんのかなあ?」と俺に訊いてきたことがった。
 「さいいん」と「あわじ」、「ナルニア」と「アルメニア」・・・後者の語感は確かに互いに似ている。母親がそう勘違いしたのもムリはないと思う。
 ちなみに、アルメニアは現地で「ハヤスタン(Հայաստան)」と言う。「ハイ(հայ、アルメニア人の自称)の国(或いは土地; ペルシャ語由来)」という意味だ。「アルメニア(Armenia)」自体は、アルメニア人の伝承に、彼らの祖先として「アラム(Aram)」という人物がいたとされ、そこからきているらしい。-iaってのは、ラテン語由来の、「~の土地」を表す接尾辞だ。「ナルニア」はイタリアの地名「ナルニ(Narni)」が元になっているそうだ。この2つの地名はその成立に於いて互いに一切関係がない。
 しかし「さいいん」を「あわじ」と勘違いする人はそうそういないと思う。勘違いした俺ですらそう思う。
 この話の肝はイントネーション。
 ・・・これ、発音を実践したりすることで、または聴覚を以って言語を効率良く覚える際に利用できないかな?
 日本語文を音読し、そのイントネーションを保ったまま他言語を発音すると、自身に馴染みある音の調子の助けを借りて暗記が楽にならないだろうか、という思いつき。
 勿論、正しい発音を後々身につける際には、この試みがはっきりと阻害として実感してしまう羽目になるであろうが、今はとりあえずどうでもいい。
 他言語を母語として口にする。
 思考を起点にした発声が言わずもがな理想であるが、それが待ちきれない、或いはペラペラを手っ取り早く気取りたければ、この試みを繰り返すことで滑らかな発話が叶うようにならないだろうか?
 俺は日々、早々に他言語を多少なりとも身につけたがるせっかちな己の欲望を充足させるべく、どう学習を進めていけばいいのか考え続けている(その時間を使って同時に勉強もできてれば素晴らしいが・・・)。
 絶対にあると思うんだよな・・・労せず多量のことを、それも素早く暗記できる方法が。
 不思議と、一度か二度くらいしか目にしたことのない言葉でも、ずっと覚えているものがある。もし音声も併せてかつて覚えたものであれば、文字と音声という2つの要素が効力を発揮して記憶から消え難いものになっているのであろうと想像がつくが、俺の場合は実際なんと発音されるか確認したとはまず考えられない。特に数年前知った言葉は。今でさえ自分が学習経験のある他言語の実際の発音を積極的に確かめようとしてないんだから(最近ようやく、YouTubeで他言語による映画やニュースを観たり聴いたりするようになった)。
 そういうものは何故長い間覚えていられるのか?
 この疑問に答えるためには科学的な考察が要求されるというのであれば、独り家の中机に向かって唸っているだけではほぼ確実に解明できない問題だと思うが、この驚異的な記憶力の発揮が、理想的な暗記法として唯一の価値あるものとは限らないので、色々と考え続けて無駄はないと思う。というか、そう思いたい。
 ただひとつ、考え続けることの欠点があるとすれば、それは理想的な暗記法を探るために繰り返し文章を読んでいる間に、暗記法の実践とは関係なくいつの間にか言葉を覚えていってしまうことだ。いや、暗記ができていっているのなら当然歓迎すべきではあるが。
 ちなみに、少し前まではドイツ語ばかりを読んでいた。
 今暗記法の模索にあたって利用しているのはアルバニア語である。
 語感が似ている他の言語を知らないので、言葉ひとつとっても物凄く覚え辛いことが理由である。これがスラスラ覚えられる方法が編み出せたら、その方法は本物であろうと。
 ところで「アルメニア」と「アルバニア」は似ている。しかし、「アルメニア」の本来の名がこの音とまったく違う「ハヤスタン」であることに似て、「アルバニア」はアルバニア語で「シュチパリア(Shqipëria)」と言い、実は互いにさっぱり関連性のない名前だ(正式な国名としての名は「Republika e Shqipërisë(レプブリカ・エ・シュチパリサ=アルバニア共和国)」、アルメニアは「Հայաստանի Հանրապետություն(ハヤスタニ・ハンラペトゥテューン=アルメニア共和国)」)。
 主題と全然関係のない話だが、こうやってヨソの国名が現地でなんと言われているか知るのはすごく面白いのでオススメします。で、現地での名と日本語名だけでなく、多言語でなんと言われているか調べると更に倍々で楽しい。
 例を挙げると・・・そうですね、現代ヘブライ語を勉強していたときに知った「ヤヴァン(יוון / yavan)」って名にはびっくりしました。どこだと思います?
 まあググれば一発ですが、当てずっぽうでももし正解の国名を言えた人はスゴイ。投げやりな気持ちでいてすら「あの」国が脳裏に浮かんでくることは普通ないと思うから。ここ日本に於いても有名な国ではあるんですが。
 ヘブライ語と同じくセム系の言語であるアラビア語では「アル・ユーナーン(اليونان / al-yūnān)」で、ラテン文字で見ればちょっと似てると思えんこともないでしょ?まぁ、語感はまったく違いますけどね。あ、「al-」ってのは冠詞なんで、これ込みで見ないでくださいね。
 この国がヨソで言われている名には大きく二通りあって、ひとつがこの「Y-N-N」系、というかアラビア語系です。たとえばアラブの影響色濃いトルコ語では「ユナニスタン(Yunanistan)」と言います。日本語名には、ラテン語由来であるもうひとつの系統が採用されています。
 原語では「エラザ」と言いますが、この国はかつて、「ヘ(he-)」で始まる名で呼ばれていました。どういうわけか現代に於いては、ノルウェー語(デンマーク・スウェーデン語名はラテン語系)やハワイ語で、この国のかつての名の語頭が原形を留めていることが非常に面白い。
 長い文章が読めなくても、日常的な単語が10個も理解できなくても、他言語に関わるとこんな小さなことで大きな楽しみが享受できる。言語ってのはホントにいいもんだなあとつくづく思うわけですよ。

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