2010年11月20日土曜日

数字 II

 では昨日の続き。

 そういうわけで、ヘブライ語には、とりわけ数詞の運用に於いては面倒臭い連語形の規則があるわけです。まぁ、各々の語が互いに全く異なる独自の方法に則った連語形を有しているわけではないので、割と早く慣れることができるかとは思いますが。
 定冠詞のついた名詞を修飾する数詞男性連語形をつくるにあたっては大きく2パターンあって、1. shloshah, khamisha, shisha, ‘asarah、2. ’arba‘ah, shiv‘ah, shmonah, tish‘ahに分けることができます。
 パターン1は、-Cet(Cはconsonne=子音)となるもの。パターン2は-Catとなるもの。簡単に言うと喉音(א, ה, ח, ע)で終わるものは-Cat、それ以外は-Cetです。
 男性形は全部喉音が語尾に来てるじゃん、と指摘されればそれは確かに正しいんですが、名詞や形容詞に於いては男性単数形が原形とされているものの、数詞に於いては女性形が元の形であるようなんですよね、どーも。
 アラビア語の基数詞とヘブライ語の基数詞は非常によく似ていて、アラビア語の基数詞基本形が、ヘブライ語の基数詞女性形にあたる語形であるということがその考えの元となっているのですが。いち、にい、さん・・・と数字を独立させて数える際に用いる数詞の形は、アラビア語(1と2を除く)でもヘブライ語でも何故か女性形です。アラビア語の場合は、-aで終わる、つまり母音が最後に来ているので言いやすいからなのかとか考えているのですが・・・さてどうしてなんでしょう。
 さてパターンの話に戻りますが、女性形を見てみると、喉音で終わっているものは4(’arba‘), 7(sheva‘), 8(shmoneh), 9(tesha‘)のみ。このことを根拠にパターン2が存在し得るという考え方を私は持っています。ちなみに現代ヘブライ語では、すべての語末の喉音字母は、母音を含んでいなければ黙字です。転写の際、私はすべてラテン文字に起こしていますが、原語での形に忠実でありたいだけであって、実際には読みません。また、אとעはそれぞれ「’」と「‘」として書き分けていますが、音は同一です。これはアラビア語に於いてこれらに対応する字母・أ(’alif)とع(‘ayn)、並びにその発音を根拠にしています。
 また、khamishahはkhameshet、shishahはsheshet、‘asarahは‘aseretとなり、単に-ahを-etにするだけでは済みませんが、これは語末の形が変わることに影響される現象で、これらに限らずヘブライ語ではよく見られるものです。仕方ないのでただ慣れましょう。その内、単純に語末をいじっただけでは済まなそうなものが直感的にわかってくるようになります。
 定冠詞+名詞直前の数詞女性連語形は3, 7, 9しか持ってませんのでさほど煩わしくない。shaloshのaが落ちる、sheva‘とtesha‘はeが落ちる、それだけです。元の形に何か追加されたものがあるわけでもなくただ落ちるだけ、しかも何故これらのみに連語形があるのかは考えてもわかりませんので、自分自身を納得させるために理由を考えて努力するという点に於いては面白くなく、ある意味男性形よりも理不尽とも言えるでしょう。ただ、名詞が複数形になったり連語形になったりする際にどこかの母音が落ちることは珍しくもなんともないので、語形の変わり方自体については別に文句ありません。cf. בן אדם(ben ‘adam=人間(lit. アダムの息子)) > בני אדם(pl. bney ‘adam、複数連語形)、פתוח(patuakh=開いている) > פתוחים(pl. ptukhim)、קדוש(qadosh=聖なる) > קדושים(pl. qdushim)、שם(shem=名) > שמי(shmi=私の名)。
 (現代)ヘブライ語の数字について、今知っていることの中で挙げるべき要素はこれくらいです。
 次にアラビア語。
 これは本当にもう、非常に、有り得ないくらい面倒臭い。
 他のセム系言語と比較して、それだけに留まらずセム祖語にまで遡って数詞について検証、研究しながら数詞の原理を理解した上で取り掛かるのがいいんじゃないかというくらい理不尽極まりない。
 まずは、ヘブライ語と比較しつつ、1~9を見てみる。

アラ数詞(基本(男性)形) /  ヘブ数詞(女性形)
واحد(wāḥid) / אחת(’akhat)
إثنان(’ithnān) / שתיים(shtayim)
ثلاث(thalāth) / שלוש(shalosh)
أربع(’arba‘) / ארבע(’arba‘)
خمس(khams) / חמש(khamesh)
ست(sitt) / שש(shesh)
سبع(saba‘) / שבע(sheva‘)
ثمان(thamānin) / שמונה(shmoneh)
تسع(tis‘) / תשע(tesha‘)
عشر(‘ashr) / עשר(‘eser)

 まぁ面白いくらいそっくりですね。「空港」はمطار(maṭār)とשדה תעופה(sdeh te‘ufah)っていうんですが、こんなひとつのものに対してまったく違う言葉(ただ空港はかなり近代的なものなので、分化による相異がまだ小さかったかつての時代に比べると造語の経緯が大分違っただろうという推測はできますが。ヘブライ語の方は知りませんが、アラビア語の空港は「飛ぶ」という動詞から来ています)がはびこる両言語に於いては奇跡というくらい似通っています。ただ、性が違うんですよねぇ。

アラ数詞女性形
واحدة(wāḥida)
إثنتان(’ithnatān)
تلاتة(thalātha)
أربعة(’arba‘a)
خمسة(khamsa)
ستة(sitta)
سبعة(saba‘a)
ثمانية(thamāniya)
تسعة(tis‘a)
عشرة(‘ashara)

 で、これが女性形。ヘブ数詞の男性形はもう敢えて書きませんが、語形上、アラ数詞男性=ヘブ数詞女性、アラ数詞女性=ヘブ数詞男性というよくわからない現象が起こっていますね。
 これらが言うまでもなく1の位。では次に10の位、11~19。

أحد عشر(’aḥada ‘ashara)
إثنا عشر(’ithnā ‘ashara)
ثلاثة عشر(thalāthata ‘ashara)
أربعة عشر(’arba‘ata ‘ashara)
خمسة عشر(khamsata ‘ashara)
ستة عشر(sittata ‘ashara)
سبعة عشر(saba‘ata ‘ashara)
ثمانية عشر(thamāniyata ‘ashara)
تسعة عشر(tis‘ata ‘ashara)

 数をただ数える際に用いる表現です。واحدはأحدというものになっていますね。女性形はإحدى(’iḥdā)です。
 上で数詞を男性形と女性形にわけて書きましたが、数を数える際には、1と2だけ男性形で言って、3から10までは女性形で言います。何故?考えたところで無駄なので諦めましょう。この11~19でも、11と12だけは1の位が男性形になっています。
 また、これらはすべて-aで終わっていますが、「対格」になっていて、且つ、格変化が行えません。理由はこれまたわかりません。ただ、アラビア語の2は双数形の形に準じており、12だけは属格形を取ることができ、إثني عشر(’ithnay ‘ashara)になります。
 20はعشرون(‘ishrūn)、21、22など10の位と1の位をくっつける際には1の位を先に言います: واحد وعشرون(wāḥid wa-‘ishrūn)、إثنان وعشرون(’ithnān wa-‘ishrūn)、ثلاثة وعشرون(thalātha wa-‘ishruūn)...

20以外の10の位
ثلاثون(thalāthūn)
أربعون(’arba‘ūn)
خمسون(khamsūn)
ستون(sittūn)
سبعون(saba‘ūn)
ثمانون(thamānūn)
تسعون(tis‘ūn)

 この-ūnという語尾は、男性名詞や形容詞男性形の内、規則的に複数形のつくれるものにつくものです。たとえば、مدرس(mudarris=教師)からمدرسون(mudarrisūn)など。
 「規則的でない」とは、صديق(ṣadīq=友人) > أصدقاء(’aṣdiqā’)やكتاب(kitāb=本) > كتب(kutub)のようなもののことです。
 ヘブライ語にも不規則的な複数形を持つ男性名詞があります。しかしアラビア語の不規則名詞に比べればすさまじく取るに足らない。男性複数形の語尾には基本的に-imが付く中、女性名詞の複数形に付く-otが現れるשולחן(shulkhan=テーブル) > שולחנות(shulkhanot)、שם(shem=名) > שמות(shemot)や、含有の母音が変わるספר(sefer=本) > ספרים(sfarim)などがありますが、kitāb > kutubみたいなわけのわからないものはありません。これをヘブライ文字で起こすとכיטב > כוטובです。ありえないです。
 一応、不規則な形の中に規則的なパターンがあり、その内のどれかを採用しているということらしいのですが(たとえばkitāb > kutubタイプは他にjadīd > judud(新しい)など)・・・覚えようと思ったらその時点で気が滅入りそうです。もう慣れしかないでしょう。

 なんか本題である数字の話が先に進んでませんが疲れたのでここで切ります。مع السلامة!

過去の記事(アーカイブの頻度: 週毎)